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施工事例
農業土木施設は、特に冬季などにおいて過酷な環境下に晒される場合も少なくありませんが、次の更新時期までの間、少なくとも数十年に亘り、営農インフラとして安定的に供用させる必要があります。加えて、農業従事者の減少傾向が今後も続くと見込まれているため、昨今は、それら施設の維持管理における省力化が、設計上の重要な課題となっています。従って、農業施設は、その多くが比較的シンプルな構造を有していますが、堅牢で出来るだけ手の掛からないよう配慮したものにする必要があります。以下に、当社で実施設計を行った各種施設について、設計時の課題とその対応、施工後の供用状況について紹介します。
ほ場整備
(H29設計 / R02施工)
写真のほ場群は、「農地再編(ほ場整備)」で整備したものです。
設計を行った植民区画(540m×540m)では、昭和40~50年代に、一度農地再編を実施しており、その時点で79枚のほ場(=30a/枚程度)に拡大集約していましたが、これを更に11枚のほ場(=2.2ha/枚程度)へ拡大集約しました。なお、写真左手奥の一際大きなほ場は、本来2枚に分けて整備する計画のものを、平坦な地形条件であることを踏まえ、整地時の切盛土量を抑えられる見通しであることを根拠に、4.0ha見合いの1枚区画としました。
また、ほ場の区画を拡大統合することにより、農道や用・排水路、暗渠排水の配置も大きく変わるため、それら関連施設も一体的に整備します。
農地再編は、特に受益者の個人財産である農地を直接的に触れる事業のため、予算を執行する官公庁の職員や、用水路の維持管理を担う改良区の職員だけでなく、排水路の維持管理を担う役場の職員や、実際に農地を使用する受益者の意向についても汲み取る必要があり、設計を進めるなかで諸所明らかとなる課題に対し、各者が納得・許容できる対応案を提示し、1つ1つ解決していく必要があります。
また設計に当たっては、用水路や排水路の系統が設計する区域内で完結していない場合も多いため、隣接区域との用排水のやりとりの状況を正確に把握し、設計区域の施工後に、周辺区域へ用水が行かなくなったり、周辺区域からの排水の行き場が無くなったりしないよう配慮し、必要に応じて暫定的な用排水施設の設計を行うよう提案しました。
ほ場整備(植民区画に11枚の新区画)
送水系パイプライン起点取付工
(R01設計 / R02施工)
本施設は、「農地再編(ほ場整備)」の1工種として設計した送水系パイプラインの起点取付工です。
従前は、自由水面を有する開水路形式だった用水路について、ほ場整備の実施に伴い、ほ場区画を拡大する支障となるため、写真の位置より奥の区間を送水系パイプラインに改修し、拡大したほ場区画に沿って配置される耕作用農道下に布設しました。
本用水路は、河川沿いの平坦地を流下しており、パイプライン化した場合に管内水圧が大きくなり過ぎるおそれも無いため、通常最も経済性で有利になるクローズドタイプパイプライン形式を選定するところですが、1kmほどパイプライン化させたその先の下流域で、開水路形式の既設用水路に接続させる条件であることを踏まえ、オープンタイプパイプライン形式を選定しました。
写真右手の附帯構造物は余水吐で、パイプライン化する区間の途中に配置されるスタンド工から分岐する配水系パイプラインの用水使用量が計画を下回った場合に、用水路が溢れぬよう余剰水を逃がすための施設です。本施設の規模は、出来るだけ大きい方が安心なものの、処理先排水路の受入能力や、経済的観点からの妥当性、施設の維持を担う土地改良区の管理体制などについて検討調整し、決定しました。
また、写真奥手の水路内に設置された格子状の附帯物は、除塵スクリーンです。開水路形式の農業用水路には、上流からさまざまなゴミが流下してくるため、パイプライン内で詰まり事故が生じぬよう、パイプラインの入口に除塵スクリーンの設置を要します。除塵スクリーンの目幅は、出来るだけ小さい方が、パイプライン内へのゴミの流入を阻止できるものの、そのぶん頻繁に掃除を行う必要が生じます。従って、目幅の決定に当たっては、上流区間におけるゴミ流入の可能性についての見極め(市街地を通っているか、樹林内を通過するかなど)や、施設の維持を担う土地改良区の管理体制などについて検討調整し、決定しました。
なお、写真最奥の地上に突き出た黒いものは通気孔で、用水と一緒に下流のパイプライン内に連行してしまう空気を排除し、管内の不都合な圧力変動や通水能力の低下を防ぐために設置するものです。
- パイプライン:送配水を圧力管路で行う水路形式のこと。従って、パイプラインの管内は、満水状態となり水面が生じない。
- 送水系用水路パイプライン:ダムや川などの水源から配水系用水路パイプラインまでの送水を担うパイプライン用水路のこと。
- 配水系用水路パイプライン:送水系パイプラインより用水の供給を受けて、各ほ場に用水を配水するパイプライン用水路のこと。
- クローズドパイプライン:末端までの区間を閉塞管路とすることで流水を連続させて、起点の水圧を末端にまで及ばせる形式。
- オープンタイプパイプライン:要所要所に自由水面を持つスタンドを配置した形式で、スタンド毎に水圧が縁切りされる。
起点取付工(写真手前が既設開水路で奥が地下埋設で改修のパイプライン)
配水系パイプライン取水口工
(H29設計 / H30施工)
本施設は、「農地再編(ほ場整備)」の1工種として設計した配水系パイプラインの取水口工×2箇所です。
写真に示す上下方向に流下している開水路形式の用水路は、既設利用とした施設です。そして、この用水路に取水口工を設置し、隣接するほ場へクローズドタイプパイプライン形式にて配水します。
取水口工の構造は、開水路内とその右隣に計2連の桝を設置のうえ、両桝間に切欠を設けて用水を右桝内に導水し、以後を配水系のクローズドパイプラインとします。なお、切欠部には、除塵スクリーンを附帯させています。
本地点で配水するほ場の面積は、A=11ha余りです。一般的には、取水口工を1箇所にするところですが、配水先ほ場の内A=4haのほ場について、取水元開水路の水面と配水先ほ場との高低差(≒水頭差)が極めて小さく、高低差がある程度確保できるその他A=7haのほ場と同一路線のパイプラインで配水した場合、高低差の大きなほ場での用水利用状況により、高低差の極めて小さいほ場において、用水の供給が極めて不安定となる懸念がありました。このため、取水口工を2つに分けて、水理上の縁切りを図りました。
また、高低差が極めて小さいほ場側に供給する取水口(写真上手側)は、堰上により水位を上げられるよう、堰上板の設置が可能なよう桝内に細工を施しました。
取水口工2箇所(開水路内に桝を設置し、右手桝に導水させる)
支線排水路本体工
(R01設計 / R02施工)
本施設は、「農地再編(ほ場整備)」の1工種として設計した支線排水路です。従前は、用排水兼用として、開水路形式の用水路に排水処理していましたが、その用水路をパイプライン化することや、ほ場の暗渠排水を整備することに伴い、排水路に十分な切深を確保させなければならぬ条件が発生したため、本支線排水路を新設整備することになりました。
農業排水路は一般的に、10年確率の洪水量に耐えうるよう、加えて2年確率の洪水量までを装甲断面の低水敷内(=写真:コンクリートトラフ水路)で流下させられるよう、施設の構造や規模を決定します。
写真箇所は、左手が本事業で整備したほ場、右手が他事業で新規建設中の道路となっています。昨今、ほ場内の排水を集水する規模の小さな小排水路は、草刈作業等が省力化出来るとの観点等より、暗渠化して耕作用道路下に埋設する形式が増えています。しかし、それら小排水路を受入れて河川まで排水を運ぶ幹線ないし支線排水路は、規模が大きくなり、暗渠化すると経済性等において著しく不利になるため、写真のように、明渠排水路として整備するのが一般的です。
なお、水路の法面は、病害虫の発生を抑止し、洪水時の通水阻害を生じさせぬよう、除草の維持管理を要します。このため、人力での除草作業がしやすいよう、法高1.0m毎にステップを設ける事例の多いところですが、将来的な自動草刈機の導入を見越し、本設計ではステップを設けぬものとしました。
支線排水路(V-1000トラフ装甲)
切土法面保護工
(H28設計 / H29施工)
本施設は、「農地再編(ほ場整備)」の1工種として設計した整地切土に伴う法面保護工です。
切土法面の保護は、土質等で特に配慮すべき事情のない限り、施工後の自然回復を期待するか、安価な種子吹付工を施すかの対応が一般的です。
本設計を実施した地区内では、山地沿いにおいて「風化で軟質化した含水比の高い火山灰層」が砂礫層に狭在する形で分布しており、切土による応力開放で法面の崩壊に至る事例が発生しました。
山地沿い区域を含んでいた本設計では、それらの先行事例を踏まえ、地質専門コンサルタントと委託契約を結び、現地踏査と機械ボーリングおよび土質試験を実施し、同様の軟質火山灰層の分布を確認しました。このため、切土法面と法尻にはフトン籠を設置し、法面土の流亡と崩壊を防ぐものとしました。加えて法尻には、疎水材(砂利)で巻いた暗渠管を埋設し、浸透地下水や降雨時の表面水を速やかに近傍の小排水路へ除去させられるようにし、法面の安定を図りました。
切土法面保護工(フトン籠張り+法尻暗渠)